sonihouseとnight cruisingが共同主催する、新たなイベント「HERITAGE」。記念すべき第一回目は、大阪・島之内教会で開催されました。
それは、底抜けに天気が良く、3月も末の春の兆しが見えてきた土曜日。
陽気につられて街全体がちょっと浮かれているような感じがする大阪 心斎橋の一角に、
ひっそりと佇む島之内教会。建物の中はひんやりした空気で満たされて、
この場所だけが冷静を保っているような印象さえ感じます。
薄暗い教会の中、舞台にはピアノとギター、それにラップトップをはじめとした機材が、
そして照明・渡辺敬之によって演出された電球たち、
壁際からは私たちを取り囲むように12面体のスピーカーがこちらを見つめています。
今日の出演アーティストは、Bruno BavotaとPolar M。
sonihouseとnight cursingの共同企画「HERITAGE」は、静かにはじまりました。
photo by yusuke kajitani
photo by yoshikazu inoue
まずは音を鳴らすのは、Polar M。舞台に腰を下ろし、最初は一音一音丁寧に音が紡ぎだされていきます。
天井の高い教会の中、建物の中をぐるりと一周してから聴こえてくるような。
目をつむり、耳を傾けていると徐々に展開を重ね、
気付けばずいぶんと遠いところまできたような錯覚に。
photo by yusuke kajitani
おそらく、他の多くの来場者の方もそうだったと思いますが、
この日はどうしても目をつむってしまいがちでした。
もちろん、音に集中しようとして無意識にそうしているのですが、
でも教会でみんなすこし俯いて目をつむる態度は、祈りになっていたのでは、とも思ってしまいます。
目を閉じた真っ暗な中にも、渡辺敬之の電球がまぶたを通過してぼんやりとした光が届き、
ふとまぶたを開くといつの間にかまばゆい光に。
音楽に合わせて点滅するライティングは、
潤った眼球に沿って歪曲した光に変わり、だんだんと浮世離れしたように心をゆらゆら揺らします。
photo by yusuke kajitani
感動的なPolar Mの演奏を終え、転換のあいだに固くて長い木製の椅子でリラックスしていると、
次はBruno Bavotaが壇上へ。目が青く、身長の高いピアニストは、丁寧にお辞儀をして演奏について話してくれました。
それは、ちょっと神父さんみたいでもありました。
photo by yusuke kajitani
photo by yoshikazu inoue
Polar Mとは打って変わって、1曲ずつ自分の曲を披露し、
拍手が起き、マイクを持って次の曲を説明したり、今回のツアーを話をしてくれる。
お客さんの気持ちをなだめるように、1曲ずつピアノの音の広がりを私たちと共有し、
だんだんと彼のムードにつつんでくれます。
すると曲が終わり、またマイクを持ち、Polar Mの名前を呼び2人の共演が促されます。
短い時間の中で、オーディエンスの期待値以上のパフォーマンスを見せてくれる2人に、
静かな盛り上がりを見せました。
photo by yusuke kajitani
ここでこっそり告白させてもらうと、共演の後、Brunoの短い演奏が一旦終わり、
アンコールになったとき、会場を出て2階の狭いスペースに移動して聴いていました。
ひっそりとしたそのバックヤードのような空間は、ニューシネマパラダイスの
「あの」映写室のような匂いがして、椅子はひとつだけ。
上から俯瞰してみた会場は、どこから音が響いているのか、誰が音楽を聴いているかもわからないような、
みんな何かを待っているみたいで、とても静かな風景でした。
photo by yusuke kajitani
今日の日が終わり、外に出るとまた変わらない心斎橋の喧騒の中へ帰途を。
繁華街特有の、ムッとするような匂いに鼻の息を止めながら、こんな風に考えました。
HERITAGEー
受け継ぎ、そして未来へ残すべく今日のこの財産は、目にも見えなければ手元にも残らないでしょう。
けれど、この日、この時間を共有した私たちの記憶の中にだけ、まだ不安定に形を保っています。
「民謡は、受け継がれるほどに美しい。たとえ内容が変わったとしても。」
という、ある民謡研究者の言葉を信じつつ、この日のことを語り継ぎたい。
すこし忘れて脚色が入ってもいいし、もしかしたら全然違う話になってもきっと構わないはず。
その感情を共有するために紡いだ言葉を、ただ途切れさせずにいれば、きっと。
photo by yoshikazu inoue