前日の大雨も晴れ上がり、湿っけの残る丹後篠山、rizm。足元に残る水たまりを避けながら会場へ向かうと、梅雨のはざま、日差しが会場を照らしています。オライビ/曽我大穂/トウヤマタケオによる、トリオ演奏会は、外の暑さを感じさせない、元・米蔵のrizmのひんやり涼しい空間の中でスタートしました。
この日は、小学生以下は無料だったので、お子さんを連れたお客さんも
ちらほら目立ち、平均年令もグッと若い観客たちでした。
イベント開始時刻の14:30が少し過ぎた頃、会場の照明が暗くなり、
怖くなった子どもたちの驚いたような泣き声が響くなか、
本日の演奏者3人が、会場の真ん中にあるステージに登壇。
どこか異国情緒が漂う衣装を身に纏った3人の半身を、
うっすら暗い会場に光る濃いオレンジのスポットライトが照らし、
演奏の始まる前に、ムードはもうすっかり出来ています。
ふと、遠くから、フィールドレコーディングで採集した音がだんだん近くへ。
不思議なもので、目で風景を見なくともレコーディングされた場所が、
日本ではない、遠く、海外だということを確信しながら聞いてしまう。
細かい音がたくさん入ったフィールドレコーディングを背景に、
いよいよドラム、キーボード、ギターの演奏がスタート。
ドラムがグルーヴをにぎりつつ、大きな流れの中でそれぞれが
多彩なアイデアのある音が飛び交うことに。
たくさんの楽器と機材、カセットテープを机の上に並べ、長袖を肘までめくりあげた曽我さん、
首からも楽器をぶらさげ、忙しそうに、手当たり次第のように楽器を掴んでは離すを繰り返す。
曽我さんがおもむろに机の上から手に取った、小さな楽器。
口にあて、一瞬息を肺に溜めてから吹き出された音は、周りから聴こえる
子どもたちの泣いている声とそっくりで驚きます。
そしてなだれ込むようなオーバーダブをつかって、会場のあちこちから
泣き声(のような楽器の音色)が響き、それはすっかり音楽に変わってしまいました。
長い1曲目の途中から、照明はだんだん明るくなり、
オライビさん、曽我大穂さん、トウヤマタケオさん、やっと表情がわかるほどに。
激しい、埃っぽい、乾いた音楽。いつの間にか会場の温度は上がり、
照明のオレンジ色で照らされる3人の肌は、とても日焼けしているようにも見えます。
もう、誰も彼もが叫んでも泣いても聴こえないくらいの音量になりつつ、
怒涛のオープニングも一旦休憩し、3人による自己紹介はとても簡単に済まされ、さあ次の曲へ。
細かく、軽やかな音を繰り出すオライビさんのドラムには、
お客さんは座りながらも、みんな靴の中の指がグッパと動いてしまっていたはず。
3人がそれぞれのタイミングで口を大きくあけたシャウトが響くと、
それは、具体的な多くの言葉より、くっきりしたイメージを伝えてくれます。
1曲の中に、歩みがあり、風景が動いて演奏に
私たち全員がひとつのキャラバンで、盗賊から避けるために身を寄せ合いながら過酷な道のりを、
ラフでサイトスペシフィックな音楽で乗り切っているような、そんな気さえしてきました。
だとすれば、せわしなく楽器を手に取りながら、体いっぱい演奏し、
アイコンタクトを他の2人に送りながら全体の指揮を取る、曽我さんがこのキャラバンの団長。
あまりにいろんな風景を見ていたら、あっという間に過ぎてしまった第一幕。
しばしの途中休憩で外へでると、ケータリングに並ぶお客さんの姿が。
青しそ入り味噌味のもちもち玄米をおにぎりや、夏野菜のピタサンドなど、
魅力的なお料理を出し、みんなを笑顔にしてくれるポノポノ食堂さん。
とっても丁寧な手つきで、慎重に美味しいコーヒーを淹れてくれる、ANAN Coffee Stand。
食事でゆっくりリラックスしたところで、第二部へ。
壁面いっぱいに投影された映像には、実際その壁の前で机に向かっている、
山口洋佑さんの手元が映されています。
水をたくさん含んだ筆にアクリルガッシュを吸い込ませ、
即興的に瑞々しい絵が浮かび上がってきます。
その間、蝉の鳴き声や、小さな鳥の声が響き、
異国情緒から、一気に夏を感じる展開に。
面相筆で水彩が何度も重ねられていく手つきをじっと見ていると、
なんだか小学生の頃の、夏休みの宿題を思い出してしまう。
一枚目の絵が完成して、また新しい紙を取り出したころ、
トウヤマタケオさんの軽快なピアノにのって、オライビさんのウィスパーなリーディングがはじまります。
そこからまた一気にエンジンを上げ、トウヤマさんのキーボードは
激しく叩かれ、スピード感のあるベースを鳴らし、
オライビさんは、素手でコンゴの上を素早く滑らしています。
曽我さんはギター、ハーモニカなど、さまざまな楽器を使い分けながら
次、手にとったのは、文庫本。本の一節「日本を離れ海外で暮らす男が、消息不明になった」
そのような場面のセンテンスを、声に力を込めて何度も発音しつづけます。
終盤は抑揚のある曲の展開となり、穏やかに終わり、
アンコールでは、肩を震わせてハーモニカを吹き、堰を切ったかのようにドラムがソロを叩き、
ピアノはそのノリに合わせながらも感情を抑えるかのような指運を見せる、
圧巻のラストでした。
1曲が長いためか、あっという間に感じたトリオ演奏会。
この演奏は、座って聴くには行儀が良すぎたかもしれません。
けれど、ライブ中に何度か見られた、泣いてる我が子をあやすために、立ち上がって見せる母親たちのダンスは、
まさにこの演奏会にふさわしい光景でもありました。