例年よりも遅く訪れた梅雨空の7月3連休、奈良・listudeにて阿部海太郎&武田カオリの「HOUSE」公演が開催されました。関西唯一となった今回の公演は、listudeにとっても「HOUSE」メンバーにとっても異例とも言える3日間の豪華ツアー。初日は、阿部海太郎さんのピアノソロ&トーク、2、3日目は武田カオリさんをヴォーカルに迎え、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、バンジョー、ハープ、クラリネットを用いた8人編成でのアンサンブル公演でした。
ピアノソロコンサートでは、海太郎さんの和やかな奈良エピソードから。listudeで行ったインタビューでも少しお話くださったように、奈良の気持ちよく広がる空や空気感がとても好きと仰ってくださり、そのお人柄がにじみでる温かなMCに会場内にホッとするようなやさしい空気が広がります。自身の過去の作品から選んだ楽曲たちを、一曲一曲丁寧に説明しながら演奏していく海太郎さん。ユーモアに溢れた音色たちは、何気ないひとときさえも愛おしく日常を彩るような唯一無二のメロディーを紡ぎながら、私達の目の前で飛んだり跳ねたり、時には優雅にエスコートし、海太郎さんのピアノの世界へと誘われていくようでした。
休憩を挟んで行われた、listude鶴林万平とのトークショー。2011年に行った”家宴”からの付き合いだという2人ですが、お喋りするのは久しぶりとのこと。作曲家でもあり演奏家でもある海太郎さんの、表現の奥底にあるものを垣間見つつ、NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の裏話なども。使われなかったお気に入りの曲などを会場中に吊るされたlistudeのスピーカーで試聴するなど、ここだけの貴重なエピソード満載の特別な夜となりました。予定外のアンコールもあり、盛況のうちに初日を終えました。
2日目からは、ヴォーカルの武田カオリさんと6人の管弦楽奏者たちを迎え、いよいよ「HOUSE」のアンサンブル公演です。
今回はlistudeでも初めての試み、開場から開演までの間、クラリネットの新谷健介さんが即興演奏にてお客様をお出迎え。入口カウンターに並んだ「HOUSE」グッズをあれこれ選びながらの生演奏によるおもてなしで気分もワクワク、期待感も高まります。
ある架空の女性の部屋の中にある物を想像し作られた今作「HOUSE」。12曲のタイトルは全てその”物”の名前が付けられています。武田さんの静かなタイトルコール、そして曲にまつわる詩の一節が読み上げられ、優しく静かに曲が始まります。それは、「HOUSE」というアルバムの楽曲たちが、まるで映画のように物語のようにひとりひとりに語りかけ、懐かしい記憶を呼び起こすような、とてもパーソナルな時間を感じました。1部では、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなど弦楽をメインとした構成となり、星がながれたあと空にひろがるきらめきの余韻のような海太郎さんのピアノ、シルクのようなやわらかくしなやかな武田さんのヴォーカルとの美しい調和に時を忘れ、思わずぼうっと聴き入ってしまうような、そんな瞬間がたくさんありました。
休憩後は、ハープとクラリネットが入り全員集合の8人編成。「公演後にみんなで写真を撮ると家族写真みたいになってしまうんだよね」と笑いながら話す海太郎さんの言葉通り、親密で和やかな空気感にまるでお家で聴いているかのような、リラックス感。来場したお客様によってひとつずつ開けられ完成した手回しオルゴールの楽譜の音色を演奏するところから始まり、アナログ盤限定の楽曲「vase」や、ヴァイオリン、バンジョー、クラリネットで演奏されたエルヴィス・プレスリー「Blue Moon」のカヴァーなど、遊び心も満載の、その瞬間しか味わえない特別な音が空間を満たしました。本編の最後にはatelier pianopiaさんから貸していただいたおよそ100年前の足踏み式オルガンを海太郎さんが演奏し、武田さんのヴォーカルとともにアルバムの最後の曲でもある「Clock」を披露。静かな余韻が波紋のように広がる中、「HOUSE」公演は静かに幕を閉じました。
アンコールでは、奈良のエピソードも挟みつつドラマ『京都人の密かな愉しみ』のエンディングでもあった「Reflections in a palace lake」を演奏し、終演となりました。
今回、会場内ではお馴染み奈良・宇陀のレストランPujreのドリンクのみならず、軽食も登場!自家製のお米を作ってふっくら握られたおにぎり、レモンタルタルが添えられたサンドイッチ、カスタードがこれでもかと入った夢のようなエクレアが販売され、ドリンクと食べ物でお腹も満たしながらこの演奏会をお楽しみいただくことができました。
3日間という長い期間の公演は初めての経験となりましたが、毎日たくさんのお客様が来てくださり熱気あふれる最高の3日間となったように思います。演奏者の方々も日を増すごとにグルーヴ感が増し、音色が次第にこの地に馴染んでくる様を感じられたことが嬉しく、また新鮮な気持ちでした。ひとつずつ奈良での日々が最後になっていく中で、こうした素敵な瞬間を作り出せたことはとても喜ばしく思います。改めて感謝いたします。
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阿部海太郎&武田カオリ 「HOUSE」奈良公演
2024年7月13日(土)・14日(日)・15日(月・祝)
– 出 演 –
阿部海太郎(ピアノ、ヴァイオリン他)
武田カオリ(ヴォーカル)
小寺里枝・佐藤恵梨奈(ヴァイオリン)
春日井恵(ヴィオラ)
越川和音(チェロ)
新谷健介(クラリネット)
中村大史(バンジョー、ハープ)
– ドリンク & フード –
Purje
– オルガン提供 –
アトリエPIANOPIA
音響:鶴林万平
宣伝美術:鶴林安奈
制作:増崎真帆,伊藤豊(イトウ音楽社)
主催:listude,THEATRE MUSICA