-報告- 2023/6/4-5 音欒 -OTOMARU 2023 初夏- [岐阜]

「音欒(おとまる)」とは、2022年より始まったlistudeとPurjeが共催する音と食の新しいイベント。その場、その時でしか生まれない音や土地の食を通じて、感覚の広がりを体験する内容です。「音欒」の「欒」という字は「団欒」という言葉にも使われ、意味は「もつれて絡み合う、複数の人と人とが和やかな様子」を表します。

第1回目の音欒に来てくださった陶作家・安藤雅信氏のお声がけにより、ホームである奈良を離れ器の街、岐阜県多治見にあるギャルリ百草にて行われるという、私たちにとって願ったり叶ったりの貴重な音欒第2回目を開催することができました。

梅雨がはじまったばかりの6月。全国が雨予報に埋め尽くされる中、奇跡的に晴れ間が差した岐阜県多治見。大昔、湖だったこの地は、堆積した木材や石が、やがて土となりこの地を日本一の陶磁器の生産地とし、土は生命の基盤だけではなく、創作の基盤でもあり、経済発展の基盤をも作り出しました。そんな多治見で生まれた安藤氏による「ギャルリ百草」。青々とした初夏の木々に囲まれた自然豊かなこの場所を五感で味わい尽くす忘れられないひとときの模様をお届けします。

前回とは変わり、今回は2日間の開催となりました。初日6月4日は<夕の欒(ゆうのまる)>となり、夕方16時から、2日目、6月5日は<朝の欒(あさのまる)>となり、朝10時からのスタートとなりました。続々と集まる参加者の皆様に今回も、Purjeからのあたたかいもてなしが。会場である「百草」にちなみ、2週間前に自ら「百草」の敷地内で採取してきたという松の葉を漬け込んだシロップをソーダで割った”松のソーダ”と、自らの手で育てたお米で作った歯ごたえしっかりの”おかき”が配られ、どこか懐かしく優しい味わいにふわりと空気が和んだ気がしました。

荷物も預け身も心も軽く、澄んだ空気に深呼吸でもしたいような雰囲気の中、音欒案内人・listude鶴林安奈の導きにより、一同はざわめく木々の小道へ。この地の歴史について案内人より説明を聞きながら、「音を聴く準備体操」も終え、実際に2種類の川の水音を聴き比べ、絵や図や言葉で表してみます。目をつむり、準備体操でも行った耳の後ろに手をまるめて置いて音を聴いてみる、を早速実践しながらなど、皆それぞれのやり方で音と真剣に向き合い、耳をひらいていきます。その後、書いたものを近くの人たちと見せ合い、それぞれの言葉で今聴こえた音を共有しあいます。同じ音からも様々な響きや視点があること、皆のユニークな発想にわたしたちもワクワクしながら感想を聞いていました。

すっかり耳がひらいた頃、「百草」へ帰るとどこからともなく優美な響きが。森に棲む精霊のごとくあらわれた小林うてな氏によるライブ演奏は、耳がひらいている私たちの中にすうっと入り、心地よい響きとして身体の中でじんわり響き渡ります。その土地の音に合わせ、即興で響きを重ね、鳥の声、葉のこすれる音、遠くで聞こえる飛行機の音や、「百草」裏を走る電車の音までをもその音楽の一部として私たちに聴かせてくれたうてな氏。サポートやバンド、映画音楽で見せる彼女とは違う一面に、ドキドキするとともにまるで自分も空間の一部になったかのような心地よさを覚えました。立ったり歩いたり座ったり、誰もが自由に聴いている空間。夕暮れの中しっとり響き渡る音と、朝の爽やかで瑞々しく響き渡る音と、同じイベントでも時間帯が違えば聴こえる音も印象も変わり、そんなところもこのイベントの醍醐味かなと思いました。

うつくしい音色により耳も心も癒された頃、次の部屋へ。ぼんやりと光るその下には、安藤氏が譲り受けた『木節粘土(きぶしねんど)』。カオリナイト鉱物を主成分とする堆積粘土で、主に窯業原料として用いられている土です。「百草」がある岐阜県多治見でも多く見られるものだそうですが、ここまで大きくどっしりとしたものは珍しいそう。「百草」が多治見にあるということを、より実感し土のもつ不思議な魅力に引き込まれ、思わず息を潜めてしまいます。あたたかい白湯を飲みながら、外へひらいていた耳を静かに静かに内なる声へと傾けていく時間となりました。

そして最後の部屋にて宇陀のレストランPurjeによる食事会に思わず歓声があがります。その土地の味、つまり「百草」の味を料理したというメニューは名前も詩のようになっており、どんなお料理が出てくるのか予想もつかないワクワク感。さらにコース料理かと思いきや、その土地の旬のお野菜を使った大皿なども出てきて、初対面の人たちともお話ししながら会は進んでいきます。焚火を囲むメインディッシュのあと、テーブルの配置が茶会仕様になり雰囲気ががらりと変わった中、多治見の安藤家の味として登場したのは”味ごはん”。陶磁器を一晩中焼かなければならない窯焼き職人が、窯から目を離さなくとも栄養補給ができるようにと考えられた料理で安藤氏もお気に入りの郷土ごはん。これを会場全体でおひつを回しながら各々よそい、最後は鳥の出汁をかけてお茶漬け風にかっこみながら食べていきます。

お腹も満たされ、いよいよ安藤氏による茶会へと進みます。さっきまでのワイワイガヤガヤもひっそりと静まり、安藤氏のお茶を淹れる手つきに一同釘付け。あんこともち米が何よりも好きという安藤雅信氏と八朔が好きという安藤明子氏の言葉を反映させたPurjeのおはぎと共に、中国茶が注がれ、安藤家を存分に味わい尽くすひとときとなりました。最後は、「百草」の敷地内にあったとされる登り窯の跡地周辺で拾った陶片の上に、それら陶片をイメージし作られたPurjeの琥珀糖と安藤氏の烏龍茶をもって会は終了。

終わるころには<夕の欒>ではすっかり暗くなり、<朝の欒>ではすっかり太陽が高く昇る。それぞれの景色、それぞれの音に魅力があり、そのどれもが「百草」の日常の景色と共にあることを皆で実感し体感することができ、まさに『その場その時を聴き、味うこと』ができたイベントとなりました。

さて第3回目は10月1、2日に、第1回目と同じホームでもある奈良・宇陀にて行われます。秋の収穫祭をイメージした10月の音欒は、初夏の百草を通して前回とはまたひとあじ違った、さらなるパワーアップを経てより楽しんでいただける空間へと変わっていることと思います。ぜひ、こちらも楽しみにお待ちいただけたらと思います。

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「音欒 -OTOMARU- 2023 初夏」
2023年6月4日(日)・6月5日(月)※雨天決行 荒天中止
<夕の欒> 6月4日(日)15:30 open/16:00 start
<朝の欒> 6月5日(月)9:30 open/10:00 start

定員20名/各回

– 料 金 –
¥22,000(ワーク・演奏・食事・茶会付き)

– 出 演 –
演奏/小林うてな
食事/Purje
茶会/安藤雅信
音響/listude

– 場 所 –
ギャルリ百草(岐阜県多治見市東栄町2-8-16)

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