4月20日、桜も散り、初夏の気候が心地よい土曜日の夜、音楽家・蓮沼執太さんのサウンド・パフォーマンスシリーズ “unpeople + 1 people #10”が奈良・listudeにて行われました。ちょうど半年前頃には名古屋城でのアートプロジェクトにて、またその半年前には兵庫・横尾忠則現代美術館にてと、以前よりコンスタントにご一緒している蓮沼さんですが、listudeにて演奏していただいたことは今回が初めてとなりました。せっかくだから奈良のことをより知っていただきたい!と、ライブ前日お昼頃には奈良に来ていただき、ライブにてドリンクを担当したPurjeのレストランへご案内させていただきました。旬のお料理と気心が知れた友とのお喋り、そして豊かな自然を心ゆくまで堪能し「気持ちまでチューニングしていただきました」と嬉しいお言葉を頂戴しました。
当日のライブでは、アップライトピアノ、モジュラーシンセ、たくさんのちいさな楽器たち、レコードプレーヤーと様々な機材がステージに並べられ、満席のお客様がそれを見守る中、「蓮沼の部屋に来ちゃった感じで楽しんでください」と登場し「1分半目を閉じてください」と一言アナウンス。ワクワクしながら目を閉じていると、どこからともなく聴こえてくるささやかな水の音。ちいさな自然音からライブは始まり、次第に大きな音の渦の中へ。途中で目を開けてライブに見入る人、目を閉じたまま音の中を泳ぎ回る人、みんなそれぞれです。
今回のサウンド・パフォーマンスシリーズ “unpeople + 1 people #10”は、#10とあるように、アルバム『unpeople』発売開始から全国各地様々な場所で演奏を行い、今回のライブが10回目という意味。このパフォーマンスは、『unpeople』のレコードの音に、その場で蓮沼さんが即興的に音を重ねていくというもので、今回もレコードにあわせ様々な音を重ねていきます。既に完成された1枚のアルバムから、さらなる新しい展開を生み出す。蓮沼さんがやろうとしている「新しい表現」が凝縮されたパフォーマンスに会場の熱も一気に高まっていきます。
途中休憩をはさみ、前半後半と分けられ行われた今回のライブ。さっきまでピアノを弾いて歌っていたかと思えば、モジュラーシンセでストイックなパフォーマンスを見せたり、かと思えば鍵盤ハーモニカを弾きながら会場内を練り歩き、客席に座って演奏してみたり、ステージに用意されたたくさんの小物たちを自在に操り絵を描くように音を奏でたりと、一瞬たりとも目が離せない蓮沼さんのパフォーマンスはどんな枠にも当てはまらない自由さを持ちながら、蓮沼さん自身がきっと一番この場での音の響きを楽しみながら実験的に音を重ねているであろう様子に、すごいものを見て聴いてしまったと感じました。
最後のMCでは種明かしのように、「最初の目を閉じて音を聴く、というパフォーマンスはlistudeの音を聴く姿勢からインスピレーションを得てやってみました」とお茶目に話す蓮沼さん。その場にあわせて即座に取り入れるその柔軟さ、理解の深さにただただ脱帽の1時間半でした。
今回ライブは一夜限りでしたが、奈良のアートブックショップBO/OKでは展覧会「unpeople」を同時開催しております。また、listudeで行ったインタビュー記事もあわせてお読みいただき、じっくりとその余韻に浸っていただけたら嬉しく思います。