-報告- 2023/10/8 権頭真由ピアノソロコンサート「夢の奏で」

2022年にリリースした権頭真由ソロアルバム「夢みる耳は夜ごと月を包む」を記念して2023年秋、表現(Hyogen)、3日満月、momo椿*などメンバーとしての演奏活動を多く行ってきた権頭さん初めての関西ソロツアーが行われ、静かに雨が滴るツアー中日は、listudeにて奈良公演が行われました。

アルバムに収められているのは権頭さんが夜みた夢の話たち。目覚めてから、ピアノに夢を報告するように紡いだ即興曲集です。

今回、会場中央に置かれたピアノを取り囲むように置かれた机の上には、可愛らしいメモ用紙と鉛筆が。実は、今回のコンサートにはひとつだけ持ち物がありました。それは ”あなたの夢の話” 。眠っている時にみた夢の話をメモに書き、それをピアノ横に設置された箱の中にいれると権頭さんがその夢を即興で演奏してくれるというもの。会場ドリンクを担当する宇陀のレストラン・Pujreのチャイの優しい甘い香りに包まれながら、みな真剣にメモ用紙に夢を書き込みます。







1台のピアノから次々と生まれる夢へ誘われるようなきらめく音の粒たちを操りながら、みなのめくるめく夢を即興で演奏する権頭さん。箱の中から紙を1枚取り出し、読み上げる権頭さんはどこか楽しそうで、病院で入院した時にみたという夢や、大人になって赤ちゃんを産んだ夢、地球で曲芸をする夢、滝を登って温泉に入る夢などなど会場内に集められた夢の話20曲ほどを全て弾いていきます。それぞれの曖昧で実態のない夢の話たちが、権頭さんのピアノの音色を通し空気を含み、瑞々しい情景として目の前に浮かび追体験しているかのような、それはそれは不思議な夢見心地な時間でした。


決められた曲を決められたように弾くという美しさに慣れている私達にとって、権頭さんの指から広がる未知の世界観と生まれたてのメロディーの美しさとユーモアは、まるで童心に還ったかのような気持ちにさせてくれ、その儚い喜びは「その場、その時」にしか味わえないということを強く強く感じさせました。



さて、今回のコンサート、楽しみは音のみにとどまらず!アルバムの最後に入っている「気に入りの菓子{ディヌンドロ}を濡らさないように」という曲に登場するお菓子を奈良公演ではPujre・志帆さんが想像で作り上げてくれました。あたたかいハーブティーと共に味わうその架空のお菓子は、宝石がキラキラ散りばめられたようにたくさんの味わいが口の中に広がります。


インパクト大の耳の形のようなサクサクパイは、バターの香りが口いっぱいに広がります。キャラメルヌガーアイスは、志帆さんが{ディヌンドロ}から得た「どろっとしてそう」というイメージから出来上がったもの。甘すぎない大人な味わいのキャラメルと、強すぎないヌガーの程よいどろっと感が{ディヌンドロ}を感じさせます。Purjeの近くで採れるという栗を散らし、旬の味覚を感じられるのも嬉しいところ。ベースには、権頭さんと志帆さんが初めて喫茶店でお話しした時のコーヒーの想い出からコーヒーメレンゲを。甘いメレンゲの乙女な味わいと、コーヒーのほろ苦さに夢中になって食べ進めていると、あっという間にお皿はからっぽに。今まで様々な思い出深い「染み」をアーカイブしていると話す権頭さんは、今回も少しだけ残してアイスが溶けてしまった後を楽しもう、と無邪気にお皿を脇に置き、Pujreのディヌンドロを忘れないようにピアノへと話しかけるように弾き始めるます。心地よい雰囲気の中会場は再び夢の中へ。


昨年のリリースから今まで、様々な会場でこの「夢の奏で」を行ってきたそうで、権頭さんのアトリエには今まで集まったたくさんの夢の話が眠っているそう。会場によっては全員分弾けない時もあるらしく、いつか全て弾いてみるつもり、と権頭さん。今回のコンサートでは、会場で集めた夢の話だけではなく、子どもたちと作ったという曲の弾き語りも。ある子どもがみた夢の話をみんなで聞いているうちにみんなの夢が入り混じり、新しいお話が生まれ、それを曲にしたという背景に会場内も思わず笑みがこぼれます。曲の想いや音楽との向き合い方をひとつひとつ丁寧に、誠実にお話しする権頭さんの真摯な姿勢に、こちらも背筋が伸びる想いです。

夢のような濃密な時間はあっという間に過ぎ去り、すっかり雨があがった夜の始まり頃、会はお開きとなり、終演後も、あたたかな余韻が残る中、サインやお話に応じる権頭さんでした。自由な発想で音を楽しむ、まさに「音楽」の楽しみ方そのものを改めて思い出させてくれるような大切な時間となりました。

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