冷たい秋雨の降る中、はるばるイタリアから来日したサウンド・アーティスト/ファビオ・ペルレッタの奈良公演が開催されました。
丁寧なリハーサルを終え、来場後のお客様とも陽気にしゃべるファビオでしたが、ライブが始まると真剣な表情に。縦横無尽に会場内を駆け巡る繊細な音を一音も聴き逃すまいと、張り詰めた緊張感が漂います。
物が転がるような音や、不安げな和音、どこか冷たく美しいピアノの音、様々な音色たちが響き、重なり合い、また違う音となっていく様に聴き入る会場。動と静が交互に織り成す音のさざめきを聴いているうちに、不思議と自分自身の内なる音へも耳を澄ましているような、そんな感覚に陥ります。
奈良に来るのは初めてと語ったファビオは、リハーサル前に訪れたという東大寺で購入してきた筆を用い、そこから生まれる微かな音さえをも即興的に演奏に組み込んでいきます。不明瞭でバラバラだったそれぞれの音の欠片たちをファビオの世界へと立体的に形作っていく様子を目の当たりにするような演奏に、私達も少しずつ没入していく感覚を覚えながら、聴き入ります。
静かに、ゆっくりと、気が付かないくらいの些細な変化を繰り返しながら、しかし確かに変わっていく音の移ろいにひたすら耳を澄まし、想像力を膨らませ、自分自身も音になっていくかのような錯覚に陥る、そんな40分間でした。