Reborn Art Festival 2019 参加作品  青葉市子 「風の部屋」音響解説

12面体スピーカーと振動スピーカーを使用したサウンド・インスタレーション

 これまで様々なサウンド・インスタレーション作品の音響として使用して頂く機会がありましたが、その全てがsonihouseのスピーカーのみで構成していました。今回、音楽家の青葉市子さんからの音響での製作協力の依頼を頂き、事前の会場下見で考えたのは、震災で被災した宮城県 鮎川の廃屋での展示、しかも青葉市子さんの初めてのインスタレーション作品ということで、背景となる要素が非常に複雑で多いことから、スピーカーが複数台あり、それが目立つようなことはあまりしたくないと判断し、12面体スピーカーと振動スピーカーの組み合わせというプランを提案いたしました。はじめはsonihouseのスピーカーも全く見せないということも考えましたが、一台だけ見せることにより、かえって音響的に奥行きのある展示にできないだろうかという目論見を立てました。

目指すのはいつもと同じ自然で気持ちの良い音作り

 部屋に入って音の発生源として見えるのは12面体スピーカー一台だけですが、近づくとごく小音量で鳴っているだけです。実は他の2ヵ所に振動スピーカーを仕込んでいます。入って正面の障子の向こうからも鳴っていることに気付くかもしれません。これはもう一台の12面体スピーカーです。しかし入って右の部屋は音の発生源になるものが何もないのにしっかりと鳴っているように聴こえます。ここには3ヵ所に振動スピーカーを仕込んでいます。そしてベンチに腰掛けると足元から振動を感じることができます。床下に2台のサブ・ウーハーを仕込んで波音や心臓の鼓動など様々な音を生々しく体験できるようになっています。市子さんが自然にそこで歌ったり演奏しているように、そして鮎川地区で東岳志さんが録ったフィールドレコーディングの音源が自然と部屋に馴染むように作り込んでいます。それらが外からの環境音と交じり合い、どこまでが音源でどこまでが環境音かの境界線をなくすようにしました。(外からの音と言えば12時,17時に聴こえてくる時報の音楽は市子さんが歌っています。)鮎川の豊かな自然のおかげで様々な生き物の声が聴こえてくると思います。朝10時の開始から16時(※土日は17時)の終わりまで物語が紡がれるように音が構成され、そこにランダムに市子さんの歌や演奏、環境音が入ってきます。同じ音の組み合わせはなく、いつでも、いつまでも気持ちよく音を楽しむことができると思います。振動スピーカーを仕込んで実験的なことをしていますが目指すのはいつもの音響の仕事と同じように自然で気持ちの良い音作りでした。

 市子さん、そして録音の東さんと絶妙なチームワークで終始楽しく製作を進めることができました。約一週間の鮎川での滞在、貴重で豊かな体験になりました。

——– 開催概要 ———

リボーンアート・フェスティバル 2019

会期
2019年8月3日(土)- 2019年9月29日(日)
※水曜休祭予定(8月14日およびイベント開催日は除く。詳細は後日発表)
※網地島エリアは8月20日より開催
鑑賞時間
平日…10:00~16:00(最終受付15:30)
土日祝日・お盆期間(8月13日~16日)…10:00〜17:00(16:30最終受付)

https://www.reborn-art-fes.jp/

*青葉市子さんの展示は鮎川エリアです。
https://www.reborn-art-fes.jp/area/ayukawa


録音の東さんと実際に音を聴きながらの作業。このベンチの床下にSWを設置。ぜひ冷蔵庫からアイスを取ってこのベンチに座りながら鑑賞して頂きたい。


障子内の12面体スピーカーと機材ラック。ラックには再生用のiPhone,iPad、10ch分のパワーアンプとYAMAHA DME24N。DME24Nで音源とSPをパッチしてから各chの音を細かくEQとディレーで調整。


鯨の骨のオブジェの底面を削って振動スピーカーを仕込む。


押入内の壁面に設置した振動スピーカー。接地面の素材などによって音質が変わる。あと上から適度に圧を掛けると音が良いのでこのようにひと工夫。


押入内に設置した振動スピーカー。これは防水仕様でねじ込み式。安定して音が結構良かった。

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