こぼれんばかりの緑が森を埋め尽くし、たっぷりの太陽が夏のはじまりを告げる5月の終わり、内田輝さんのクラヴィコードの展示と演奏会が3日間にわたり行われました。


貴重な3daysの内訳は、以下の通り。
DAY1(29日) | Solo Live
DAY2(30日) | Tuning Workshop
DAY3(31日) | Special Session Live(内田輝×畠山地平)
3日間を通して、ホール内では内田さんが製作した3台のクラヴィコードとともに、想いが綴られた9編の文章と、クラヴィコードの設計図、写真なども展示されました。





DAY1(29日) | Solo Live
1日目は、クラヴィコードとサックスを使用した内田さんのライブ。ホール内から、開け放たれた窓の外を眺めながら演奏するスタイル。




音にあわせて前後左右に身体を揺らしながら全身で表現し、演奏する内田さんの姿に、会場中が息をのみながらその世界観へと引き込まれていきました。



クラヴィコードとは、ピアノの原型とも言われる14世紀ヨーロッパで生まれた鍵盤楽器です。その美しい姿と、繊細な音は、昔から見るもの聴くものを魅了し続けてきた魅力的な楽器ですが、現代社会ではなかなか聴くことが叶わない音色となりました。今回は内田さんによるクラヴィコードの聴き方のポイントも教わりつつ、その癒しの音をlistudeの森の音色とともに聴く、またとない機会だったのです。





3台のクラヴィコードをひとつずつ弾き分けていく演奏を通して、クラヴィコードの音色の違いなども実感することができました。それぞれの木の特徴が音色にあらわれ、教会の中で響く聖歌のような音色や、他のものに比べてすこし音が大きく聴こえる音色など、その個性にあわせて奏でられる音楽たちは、神聖で静謐な雰囲気を携え、拍手でさえ躊躇するほどの厳かさがありました。


内田さんはもともとサックス奏者ということもあり、サックス演奏も。クラヴィコードの演奏と同じく、静かであたたかく繊細な力強さが印象的なサックスの音色は、聴いたことがない美しさに思わずハッとしてしまう感動がありました。

DAY2(30日) | Tuning Workshop
2日目は、10名限定の調律ワークショップ。内田さんを知る上で欠かすことができないキーワードといえば「調律」です。以前、音楽理論に凝り固まってしまい、ある日突然左手が動かなくなってしまったという内田さん。そんな内田さんの左手と心をほぐしたものが「調律」の考え方だったと話されていました。(内田さんの半生を知りたい方は、ぜひlistudeのPodcastを…)



「音を聴きにいくのではなく、音がくることを待っていてください。音は振動です。必ず、あなたに到達します。その時に自分自身のどこで唸りや振動が聴こえるのか、それを感じてください。」という助言のもと行われた調律のワークショップは、今まで自分がいかに生き急いで音楽を聴いていたか思い知らされるような刺激的な時間でした。実際に、音の唸りが聴こえたとき、その一音が表現する複雑さに途方もない気持ちになると同時に、今まで自分は何を聴いていたのか?と思わず自問自答してしまうような内省の時間と発見がありました。

当たり前だと、日々の中で考えることもしなかったことに対するきっかけや勇気をもらったり、自分の知っている世界が生まれ変わったような喜びを実感したあと、実際に森の中で聴いたクラヴィコードの演奏は、さまざまな自然音の余韻に溶け込む美しい音色が、原点回帰を思わせる特別な時間となりました。
DAY3(31日) | Special Session Live(内田輝×畠山地平)



1日目、2日目をふまえて訪れた3日目は、畠山地平さんとのコラボレーション演奏。アンビエント・ドローンのジャンルで知られる電子音の畠山さんと、クラヴィコードの化学反応は、正真正銘誰もが初めての体験。それぞれのソロ演奏を行ったあと、即興的にはじまった2人の演奏は、予測不能な音の掛け合いの連続。クラヴィコードが打楽器のように激しい音を奏でたり、ミニマルなメロディーを静かに奏でたり、電子音がその音を導いたり支えたり、時には走り出したり止まったりと、2人が今つくりだす世界にハラハラドキドキ。


あの場にいた人たちだけが聴くことのできる、新しい生の音楽に誰もが高揚していることを感じました。開け放たれた窓からは、鳥の声、風のささやき、葉のそよぐ音などの自然音。それらと音楽が混ざり合い、集中して聴いているふとした瞬間に、思わず聴いている現実をも忘れてしまうような不思議な浮遊感は、その時にしか感じられないもので、儚さとともにこの機会のありがたさを強く感じました。


今回、スペシャルだったことはそれだけではありません。
奈良からレストランPurjeが来てくれて、後半2日間にわたり振る舞われた、自家製のドリンクたちやワークショップの合間のお菓子などが会場を癒してくれました。遠いところから、いつもありがとう。


3日間を通して森のホールで行われた今回のイベント。繊細な音を集中して聴く体験は、やはりlistudeならではの試みだなと思います。今回は楽器の特性上、生音での演奏が多かったですが、その中でも少しだけ使用したスピーカーの音は、繊細で静謐な世界観をそのままに表現し、心地よく聴くことができたのではと思います。お客さまの感想を聞かせていただいた中でも、ここでの音楽体験を新鮮に喜び、楽しんでいただけている様子が印象的でした。

三奏はいよいよフィナーレを迎えます。最後までどんな音色がこの森の中に響くのか、それは誰にも分かりません。
Touching sound — 響きの手触り
2026年5月29日(金)30日(土)31日(日)
DAY1(29日) | Solo Live
14:00 開場 / 15:00 開演 / 17:00 終演予定
DAY2(30日) | Tuning Workshop
13:30 開場 / 14:00 演奏 / 15:00 実技・ワークショップ / 16:00 演奏 / 17:00 終演予定
DAY3(31日) | Special Session Live(内田輝×畠山地平)
14:00 開場 / 15:00 開演 / 17:00 終演予定
– ドリンク –
Purje
– 写真 –
白倉美織
listude