-報告- 2023/10/1-2 音欒 -OTOMARU 2023 秋- [奈良]

「音欒(おとまる)」とは、2022年より始まったlistudeとPurjeが共催する音と食の新しいイベント。その場、その時でしか生まれない音や土地の食を通じて、感覚の広がりを体験する内容です。

「音欒」の「欒」という字は「団欒」という言葉にも使われ、意味は「もつれて絡み合う、複数の人と人とが和やかな様子」を表します。音楽と食を媒介に繊細な感覚を開き、奈良・宇陀の地の豊穣の季節を祝う場と時間。いつの季節にも同じものが食べられる現代に、本来暮らしの中にあった秋の収穫への祝祭。ここに密やかな音と繊細な料理で小さな祝いの場をつくりたいと考えました。おそらく奈良に都があったよりも以前、古代から祭祀の場であった劒主神社にて遠い過去の人々に思いを馳せつつ、現代の私たちが祝い楽しむ場。それが私たちの考える「音欒」です。



晴れ予報に安心しきっていた10月1日、2日。初日1日<夕の欒>は、思いのほか朝から雨が止まずに心配顔で空を眺めていましたが、天気の気まぐれにより集合時間には曇り空。2日<朝の欒>は前日と打って変わってお日様ののぼる気持ちの良い澄んだ朝の空気に包まれました。山に囲まれた宇陀は、10月にしてはとても肌寒く、みな思い思いの上着を羽織りながら、今年も栗の木の下で待ち合せます。



集合の後、振る舞われるPurjeのお茶とお菓子。今年は、寒い気候にぴったりな九州の郷土菓子”かるかん”と心まであたたまるほうじ茶。小さく角切りにされたお芋がぎゅっと乗った、もちもちの”かるかん”は、柿の葉に乗せてひとつひとつ手渡しします。緊張の面持ちで訪れる参加者のみなさまも、細かいところまでPurjeの想いや気遣いが散りばめられた素敵なお菓子に、どこかほっとした表情へ変わりにこやかに頬張る姿が印象的でした。

時間が訪れると、音欒案内人・listude鶴林安奈による挨拶と「耳をひらくためのワーク」へ。昨年と同じ小川へとみなで列を作り歩いていきます。途中、案内人より紹介されるメイン会場の劒主神社が右手にあらわれると、歓声も。立派な木に囲まれ、静かにどっしりとそこにそびえる神社の神聖さは言葉にはし難い不思議な魅力と威厳を放っています。太古の昔からこの地の移りゆく歴史を見守ってきたのかと思うと、1年前にイベントを始めたばかりの私たちはなんだか背筋が伸びる思いです。


小川では水流の違う2つの水音を聴き比べ、その音をスケッチし、参加者のみなで描いたものについて話し合います。昨年参加されたリピーターのお客様もいらっしゃいましたが、その時の気候や自分のコンディションなど様々な要因が相まって、また違ったように聴こえるという意見も。「その時、その場」を全身で感じているからこそ、普段は見逃してしまうようなわずかな違いに気が付くことができる、まさにlistudeが考える「聴く姿勢・態度」を実感している方がいらっしゃることに嬉しくなりました。



「耳をひらくワーク」を終えたのち、いよいよ会場となる劒主神社へと。会場では既に焚火が炊かれ、これから宴が始まる予感を感じさせる雰囲気が。脱帽し、神聖な気持ちで鳥居をくぐり、手水で身を清め、この秋の豊穣に手を合わせます。振る舞われたドリンクを片手に、思い思いに腰をおろし、しばしこの神聖な雰囲気の中木々を見上げ、ゆっくりとくつろいでいると、今回のゲストパフォーマー・志人が静かに奏で始めます。













言葉と生の楽器(木のようなものなど)と、電子音を操りながら、めくるめく志人の世界へと誘われるパフォーマンスは目も耳も離すことができないやみつきの魅力と、その土地で奏でられる自然の音と共に紡がれる言葉がすっと心に沁みわたっていき、忘れられない一瞬が積み上げられていく実感がありました。ステージ上に留まらず、マイクも使わずに声を張り上げ、神社裏に広がる自然の木々の合間を縫いながら全力で走り歌い叫ぶ志人の演奏は、思わず息をのむ緊張感。自然を愛し自然の中に身を置き生活している志人だからこその、唯一無二の時間だったように思います。

志人が紡ぐ言葉たちや胸にスっと響いてくる声についてなど、気になることをこれでもかとlistudeのPodcast「No Sound, No Music.」にて聞いております。ぜひお聴きください。









パフォーマンスを終えたのち、ステージ脇の社務所が開放され、秋の豊穣に相応しく設えた部屋にてPujreによる食事を心ゆくまで楽しんでもらいます。野菜や米などできる限り自分たちの手の届く範囲で育て収穫しお客様に提供しているレストランPujre。今回ももちろん秋の旬がぎゅっと詰まった特別な品が並びます。大皿に大胆に盛り付けられた秋の味覚たちを、初めて喋る人たちと分け合う宴の感覚。昔々に忘れられた人と人とのぬくもりをも思い出す瞬間です。

今年の設えには、Pujreがお米の収穫の際に取っておいた稲たちを大きく大きく欒(まる)を描くように束ねたものを作りました。また、棚の上には志人が初めて宇陀に訪れた際に、Pujreによって案内され登った劒主神社の御神体がある山から、持ち帰ってきた大きな立派な木の枝を。作られていない自然の美しさに目を奪われます。入口には、恵みを感じさせる稲を一房、隣家の方の倉庫から頂いたトタン屋根の端切れと共に。隣家の方々のあたたかい協力や応援があって、今回も「音欒」が無事に出来上がったことをしみじみ実感しています。ありがとうございます。








ほろ酔い加減もちょうど良くなってきた頃、大きな芭蕉の葉にくるまれ焼かれたスペアリブを外の焚火を囲みながらみなで食べる至福の時。焼きたてのお肉は香りも良く、旨味も口のなかでとろけます。こんなひと時を私たちが生まれるずっと前から、ここかしこで行われ、自然の恵みを祝い感謝し集っていたのだろうなと、焚火を眺めながら心までもあたたかくなるようでした。





焚火を囲む前とは確かに違うあたたかなグルーブ感に包まれ、一日を通し同じ時間を過ごした者同士、肩書や性別に囚われず大きなお櫃から炊き立ての白いごはんをよそおいあいながら、笑顔で頬張る姿は、まさに私たちが見たかった景色でもありました。
最後にデザートが運ばれ、身も心も満たされ「音欒-OTOMARU 2023 秋-」は終宴となりました。昨年以上に「自然の力」を実感することとなった第3回目の「音欒」。来年も同じ栗の木の下で笑顔で再会できることを願っております。

◎第1回目のレポートはこちら
◎第2回目のレポートはこちら

YouTubeにて、「音欒 -OTOMARU 2023 秋」の記録映像が公開となりました。

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「音欒 -OTOMARU- 2023 秋」
2023年10月1日(日)、2日(月)
@奈良・宇陀 宮奥・劒主神社周辺
 
演奏 / 志人 sibitt
食事 / Purje
音響 / listude

-主催-
listude(鶴林万平・鶴林安奈)
Purje(高橋亮太・松岡志帆)

-協力-
木塚國力・下岡真奈・古江晃也・山岸祥子
宇陀宮奥地区の住民のみなさま

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